雑記#9 死を運ぶ害虫“マダニ”から身を守る!

雑記


こんにちはBorkです。今回は前回の記事で取り上げた、死を運ぶ害虫“マダニ”に興味がわきましたので(好きになったということではありません!)、少しばかり深く勉強してみました。我々ハンターはある意味マダニにもっとも近い人間となりうるわけですし、死に至ることもある重症熱性血小板減少症候群(SFTS)から身を守るには、しっかり調べておかないといけませんからね。なぜなら猟銃での事故や山での滑落、獣相手の事故が原因の致死率よりもよりもSFTSの致死率ははるかに高いのです。これは知っておくべき事実です。

ということで、最後までおつきあいくださいませ。ちょと真面目な文章となっております。それではよろしくお願いいたします。

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死を運ぶ害虫、マダニ対策はこのウェアで決まりか?

はじめに
日本で重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が初めて報告されたのは2013年1月で、当時公表されると同時に多くのメディアで取り上げられたのは記憶に新しい。SFTSは日本よりも早く2011年にお隣の中国で報告された感染症の一種で、ブニヤウイルス科フレボウイルス属のSFTSウイルス(SFTSV)によるマダニ媒介性新興ウイルス感染症である。中国では山岳地帯の農夫を中心に年間約600人の発症があるとされており、致死率は約7〜12%と考えられている。日本においても患者数が増加しており、特に西日本中心に広がりをみせている。

SFTSVのヒトへの主な感染ルートは、ウイルス保有のマダニによる刺咬で、極少数ではあるが感染者の血液や体液への曝露によるヒトーヒト感染も報告されている。その他にペットとして飼われている犬などから感染する場合も存在する。

野生動物においては、鹿、猪、アライグマなどから抗SFTSV抗体陽性が確認されている。中でも鹿の陽性率が比較的高く、SFTS患者発生地域で陽性率が高くなる傾向があるとされている。

日本で報告されているSFTSのベクターとなっているマダニは、現時点ではタカサゴキララマダニ(図1)とフタトゲチマダニ(図2)の2種であるが、キチマダニやオオトゲチマダニなどからもウイルス遺伝子は検出されている。

図1                      図2

出典:国立感染症研究所

マダニの吸血様式
マダニの吸血様式は、蚊のように口器を直接皮下の血管に挿入し吸引する血管内吸血型とは異なり、皮下の血管を破綻させ、真皮に血液を溜め込む“blood pool”を形成し、血液を吸引する血管外吸血型である。特徴としては、長時間にわたる大量摂取で、マダニの咬着時間は幼ダニや若ダニで約3〜7日間、成ダニで約1〜2週間とされている。

マダニは宿主に咬着後、唯一の食料である血液を吸血している間、体重が増加し産卵を控える成ダニでは未吸血時体重の約300倍にもなると報告されている。実際に採取する血液量は数mLにも及んでいる。辻らは1)マダニの吸血プロセスについて詳細に報告刺している(図3)。

図3 マダニの吸血プロセス

左図:成ダニの未吸血時から飽血時までの個体変化

右図:成ダニの未吸血時から飽血時までの体重変化

SFTSの臨床症状
自覚症状としては発熱、倦怠感、嘔吐、下痢などの消化器症状と頭痛、意識障害、神経症状や筋肉痛、脱力感などがある。他覚症状としては血小板減少と白血球減少を伴うのが特徴である。また、淡泊尿や血尿、リンパ節腫大をみることも多いとされている。

潜伏期間は5〜14日間で、発症後5〜11日間継続する発熱期には血中ウイルス量が増加し上記の症状や検査値の異常が進行する。重症化するリスクとして、基礎疾患を有する事や神経精神症状や出血症状、低Na血症の合併などが報告されているが、決定的因子には至っていない。

表1 SFTS疑い患者の要件(平成25年1月30日厚生労働省健康局結核感染症課長通知による)から一部抜粋


  1. 38度以上の高熱
  2. 消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血のいずれか)
  3. 血小板減少(10 万/mm3 未満)
  4. 白血球減少(4000/mm3 未満)
  5. 血清酵素(AST、ALT、LDH のいずれも)の上昇

表1に示すような症状のうち、3〜5は血液検査等を実施しないと明らかとはならないが、1、2に関しては自覚症状であるため、狩猟のために山に入り下山後に当該症状が出現した場合は速やかに医療機関に受診した方が良いと言える。

SFTSの現状
2018年8月29日時点で約375人の患者が報告されており(表2)、今後も増加が予想される。また、発症時期に関しては、マダニが活発に活動している3月〜9月が多く、希に11月という年度も報告されている。

表2 基本情報(国立感染症研究所より引用)

報告地域としては、西日本に集中しているが、最近では京都府や三重県などの近畿地方から石川県や福井県などの北陸地方においても患者が報告され始めている(図4・5)。

図4 SFTS症例の届出地域         図5 SFTS症例の推定感染地域

SFTSへの対策
マダニによるSFTSの致死率は6.3〜30%と報告されている。現時点(2018年9月)では、SFTSの治療は確立されておらず、治療としては対症的な方法しかなく、有効な薬剤やワクチンはないのが現状である。しかしながら、DEET配合された市販の忌避剤(虫よけ剤)にマダニの忌避効果を認める報告4)があることから、市販の忌避剤を使用することである程度の予防にはなると思われる。

その他に、身体部位別の刺咬を調査した報告5)では、下肢が最も多く、次に上肢という結果であった。このことから、山に入る際には極力肌の露出を控え、特に上着の袖やパンツの裾からのマダニの侵入を防ぐことが重要である。

また、マダニは他の感染症ベクターよりも吸血時間が長いため、吸着時間が長ければ長いほどマダニを媒介としたSFTSVの体内への侵入を許すことから、早期発見が重症化を防ぐためには肝要と考えられる。

もし、マダニに吸着されているのを発見した場合、無理に取り除くのはマダニ咬部の一部が体内に残る危険性があるため推奨はされない。医療機関へ行き、取り除いてもらう事を推奨する。すぐに医療機関にいけない場合、手で無理に取り除くよりもティックツイスターなどを使用する方がいいだろう。

まとめ
今回、重篤な症状を引き起こす、マダニを媒介とした感染症“SFTS”についてをまとめた。以前から日本に存在していたSFTSVが近年増加している原因の一つに、鹿をはじめとした野生動物の増加があるだろう。人里からヒトが減り、逆に増えすぎた鹿が人里に餌を求めてやってくるようになり、これまで接触機会の少なかったヒトと野生動物が農作物などや植物を媒介とし、ヒトにマダニが寄生するようになったと思われる。つまり、マダニの宿主である鹿が増えれば、それだけSFTSVも増えることは想像に難くない。

今後、SFTSに対する治療の一刻も早い確立と増えすぎた野生動物の頭数管理がヒトの生活を重篤な感染症から守る上で重要であると思われる。

参考文献


  1. 辻 尚利ほか:医学の歩み,259:1187−1192,2016.
  2. 高橋 徹:最新医学,72:103−107,2017.
  3. 高橋 徹:山口医学,65:31−38.2016.
  4. 五十嵐 品ほか:DEET配合医薬品虫よけ剤のマダニ忌避効果
  5. 津島 弘文ほか:日本医事新報,4840:44−48.2017.

 

以上,ちょっとばかり硬い文章ですが,SFTSについてまとめてみました。当初は西日本中心で発症していたSFTSですが、おそらく今後は日本全体に拡大していくでしょう。猟銃の管理などと同様に、野生動物と接触する機会が最も多いであろう我々ハンターが最も注意しなくてはならない事の一つですね!それでは。